声優養成所に通い始めた人は経験があるかもしれません。同期の中にやたらとアニメに詳しい人はいませんか?アニメに詳しいにとどまらず、そのキャラクターを演じている声優さんのモノマネ、いわゆる声真似をしようとする人がいます。
しかしこの声真似、実は声優志望者にとっては危険なものにもなります。なぜ声優志望者にとって声真似が危険なのかご紹介していきます。
もくじ
アニメに疎い方が声優になりやすい?
声優の歴史を見てみても分かりますが、声優という職業はどちらかと言うと地味な職業です。最近になってアニメ声優がTV出演があったり、ライブ活動をやったりと人前に出ることが多くなったので、声優という職業がメジャーになってきました。
そうなるとアニオタたちは「よーし、声優になるぞ」「声優になって華々しくデビューして活躍するぞ!」と奮起します。
そしてアニオタたちは、一生懸命に声真似の練習をし出すのです。
アニメ好きの声優志望者には「声の型」がある
元々アニメが好きな声優志望者は「演技をする」ことが仕事である声優を誤解していることが多いです。そして自分の好きなキャラクターの声真似を何度も何度も繰り返します。繰り返し練習した声真似によって、そのキャラクターの「声の型」を習得します。
例えば、小さな動物キャラであれば大谷育江さんのような声の型、小学生の少年の声であれば高山みなみさんのような声の型というようにです。可愛いヒロインの声なら、声優の○○さんというようにどんどん声真似を繰り返していくうちに「声の型」を作り上げてしまうのです。
台本を「声の型」でとらえてしまう
声真似を繰り返した声優志望者は、声優養成所でもらった台本すらも「声の型」で捉えるようになります。
「あ、このキャラクターなら ○○さんの声でいこう」
「この役ならイケボの△△さんの声がぴったり」
台本を読む作業にも、その声優さんの声が、その声優さんの喋り方が頭の中に浮かんでくるようになります。こうなってくると「気持ちからセリフを発するように」と言っても、声真似をしてしまう癖がなかなか抜けません。
アニメに興味ない方が声優になれるかも
反対にアニメに興味がない人の場合、決まった「声の型」というのは存在しません。台本をもらって読み込み、解釈をして、はじめて声を出すという順序になります。
- 台本を読み込む
- 台本の内容を解釈する
- 素読みする
- 表現してみる
声優としては、上に書いた4つの順序で台本をもらって行うことが正しい方法です。この順番が入れ替わることはプロの声優ならばありえません。3の素読みはあまりしない人もいます。しかも、台本を当日もらったとしてもものすごい速さでこの手順を進めるのがプロの声優です。
しかしアニメが好きな声優志望者は、「1.台本を読み込む」時点で、すでに声が形になっています。声にして出していなくても、頭の中で大好きな声優さんの声で再生されてしまっています。
実は声優になるには、アニメに疎い方が近道なのかもしれません。
声優志望者は声真似をしない方がいい
声優の仕事は台本を「読み上げる」ことだと間違った認識だけが広まっている気がします。声優の本来の仕事は台本を解釈して、役として生かすことです。声優志望者は声真似をしない方がいいのです。
「声の型」にハマる
声優志望者はアニメが好きで声優になりたいと思うというきっかけが多いのは事実です。私個人も実際そうです。しかし、声優になりたいならば声真似での練習はおすすめできません。
最初にご紹介した通り「声の型」ができてしまい、台本を目の前にしたときに「声の型」が癖になってしまうのです。
気持ちが伴わない演技のまま
「声の型」がある程度出来上がってしまった声優志望者は、その癖があるまま台本を読むことになります。どんな台本を読んでも、その役の背景や気持ちを深く掘り下げることがないまま演技してしまいます。
結果として、気持ちがまったくないキャラクターが出来上がってしまいます。出来上がるならまだマシです。重症のときには、キャラクターの気持ちがチグハグで、つながりのない演技になってしまいます。
ゼロからの役作りができない
声真似を推奨できないのは、癖がつくだけの問題でもありません。声真似だけを練習してきた声優志望者はゼロから役を作ることができなくなってしまいます。
どんな役をやっても「どこかで聞いたような」「どこかで見たような」演技しかできなくなります。そして、恐ろしいことに声真似だけベテランになってしまった声優志望者は、新しくゼロから役作りをすることができないことの自覚もありません。
声優になれる人は「演技の真似」をする
芸能という世界は模倣することから始めます。落語ならば師匠が噺をするのを真似て覚え、学び取ります。
ん?今まで述べてきたことと矛盾していますね。
声優志望者も上手い人やベテランの真似をすることは大切なことです。真似といっても声真似ではありません。「演技そのものの真似」をするのです。
演技とは台本の解釈が8割を占める
演技とは「台本の解釈」が8割を占めます。実際の声優の仕事はスタジオでの収録なのですが、その事前準備としての「台本の解釈」が最も重要なのです。
台本を読み込んで、登場人物の背景や置かれている状況、セリフの意味や意図などを解釈します。声優への「お題」は台本にあり、その「答え」も台本なのです。
同じ解釈で「演技の真似」をする
声真似ではなく「演技の真似」とはどのようにすればよいのでしょうか。まずは台本を読みます。そして台本に書かれてあるすべてについて「解釈」します。
そこで初めてすでに演じている人の演技を見て、聞いて、真似をしてみます。一番おすすめしたいのは、最初は音声を消して自分で演じてみることです。その後、声優さんが演じているのを見てみます。解釈しきれていない場合、演じている人の演技から答えがわかることもあります。
「ああ、この声優さんはこういう解釈で演じているのだな」という具合です。
つまり、声優さんの演技を見たり、聞いたりすることは自分の解釈との答え合わせをするわけですね。
別の表現でやってみる
台本の解釈が完全に出来上がったら、初めてここで自分の考えるその役を演じてみます。他の声優さんの言い方は真似しないでください。言い方を真似する=声真似になってしまうからです。
もちろん解釈が同じなので、表現が似ることはあります。同じ表現方法になることもあるでしょう。でも反対にその声優さんの表現方法が絶対に正解というわけでもありません。この表現は違うと感じるなら、自分なりの新しい表現方法を試してみましょう。
声優という仕事は、世間一般がイメージしている仕事とかなり差があるものです。「役として生きる」ことが最も大切な声優の仕事なのです。